さあ浮世を手玉にとっちゃいな
疲れてるなあ、と思う。
普段好かない甘い飲みものが飲みたくなったり、呼吸が浅いことに気付いたり、目をぎゅっと瞑りたくなったりしたとき、そう思う。
窓のない職場なので、日の傾きも、外気温もまったくわからない。
人間として大事な感覚が、自分からポロポロ剥がれていく気がする。
お客様が一切目を合わせてくれなくても、こちらの質問にまったく答えてくれなくても、なんとか手を替え品を替え要望を聞き出し応えねばならんのだ。それが私の仕事だ。
接客されたくないんだろうな。わかるよ。店員と喋るの面倒なときあるよね。でもすまん、これが私の仕事だ。
手間のないようにクローズドクエスチョンにするから、せめてハイかイイエで答えてもらっていい?私だってひとの心があるんでっせ。
はあ、人間扱いされたい。人間に戻りたい。
このままの気持ちだとひとことめには「ネットで買え」と言ってしまいそう。ピンチだ。
切り替えねば。
職場で唯一の屋外は、屋上の喫煙所。
以前は寄り付きもしなかったが、今日は甘んじて副流煙を浴びにいく。
仕方あるまい、人としての尊厳のためだ。
休憩室併設のカフェで、期間限定はちみつ入りロイヤルミルクティーを買う。
なるべく風上に座る。
少しひんやりした風。
パラソルを嘲笑うかのような西陽があたたかい。きみたち相性いいな。コンビ組みなよ。
火傷しないようおそるおそるミルクティーをすする。甘い。気持ちがほどける。
周りが煙を吐く中、私の吐息だけが甘かった。
なんかいいな。ボーッとできる。
今まで喜んでくれたお客様のことを考える。
よし。元気でた。気がする。
ぼちぼち頑張ろう。