アラサー女の二死満塁ブログ

ピンチでもありチャンスでもある

無痛分娩 出産レポ

※痛い表現、痛々しい表現が多々登場するのでご了承のうえお読みください。

 

2022年6月30日

日付が変わった。

妊娠40週0日、いわゆる「出産予定日」がやってきた。

予定日と言いつつも、その通りに生まれる確率は5%らしい。

このまま超過して7月生まれになるのかなあ、なんてのんびり考えながら眠りにつこうとしていたところだった。


夜中1時。お腹がほんのり痛い。

胃と子宮。どちらもお腹と呼んで相応しい臓器の両方が痛い。

子宮のほうは予定日以前も"前駆陣痛"という陣痛のリハーサルみたいなものが起こっていたので

「今夜もまた前駆かな〜地味に痛いから嫌なんだよな〜」と夫に愚痴っていた。


3時。明らかに痛い。痛くて手がガクガクする。汗が止まらない。

腰を押し潰されるような、重くて鈍い痛み。いままでの"前駆陣痛"と全然違う。これはやばい。

陣痛の間隔を計測するアプリを立ち上げる。15分間隔で痛みがやってくる。冷や汗なのか脂汗なのかわからないがとにかく汗が出てくる。


4時。トイレに行くと股から出血している。鮮血。生理2日めくらいの量が出ていて面食らう。

お腹の痛みは12分間隔まで縮まっていた。

これはさすがにアカン、と産院に電話。

痛みの間隔、出血の様子などを電話の向こうの助産師に伝える。

「あ〜。それなら病院きてもらいましょうか〜。」

冷静でのんきな助産師。緊迫していた私は少し落ち着きを取り戻す。

産院まで何分で来れるか尋ねられ、「車で5分です」と答えると「近っ」と笑われた。私は笑いに飢えた獣なので、ウケた気がして嬉しかった。


電話を切る前、助産師が滑り込むように言い放った。


「スクワット10回してから来てください」


えっ、どういうこと?

急に体育会系?バスケ部の先輩?助産師兼パーソナルトレーナー


聞けば、お産が進むようにとのこと。初産婦なのでなるべくスムーズに進むよう考慮した上での指示。決して後輩をいじめたいバスケ部の先輩ではない。

電話を切ったあと、言われたとおりにスクワットする。夫が見守る中、笑いに飢えた獣(妊婦ver.)が薄明かりの中スクワットをしている。「のちのちネタになる」と確信しながら10回を終わらせた。


夫の運転する車で産院に向かう。この時点でかなり痛かったが、運転中の夫を焦らせたくなかったのでぽそぽそ「痛い」と呟く。

4:30ごろ到着。産院エントランスのインターホンを押し、入り口の自動ドアを解除してもらう。ドアの開き待ちをしながら痛みの波に耐える。立っているのがつらい。波が引くとスタスタ歩ける。


エレベーターで産院2Fに通される。痛みが引いてるうちに極力早歩きでナースステーションに向かう。電話に出てくれた助産師が出迎えてくれた。カーリングのメガネ先輩に似ている。

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先輩は私の歩みが余裕しゃくしゃくに見えたのか

「あら、結構大丈夫そうな感じ?」と軽口を叩いてきた。やはりこのひとスパルタだ。先輩だ。

私は「痛みの波がくるとやべえっす」と三十路らしからぬ口調で訴えたが、先輩は意に介さず「よし、そしたら診察券出して血圧と体重測ってこのボードに記名して」と私を入院させる手順を踏んでいく。

過剰に心配されるのが苦手な私にとっては心地よかったし、怖がらなくていいんだなと冷静になれた。

 


入院バッグを抱えた夫とともに個室に通される。分娩台がある。初めまして、分娩台。他にもトイレと洗面台、ソファがある。これが分娩台でなくベッドならホテルのような部屋だ。

ここで夫とは一度お別れ。

もうすぐ生まれるよ!というときに再度呼びつけることができるが、いかんせん初産なのでどれくらい時間がかかるかわからない。

広い分娩室にひとりきり。次いつ会える?そのとき私はちゃんと生きてる?心細い。

 


用意された装備に着替えるよう指示される。

いま着ているものをすべて脱ぎ、産褥ショーツ(股部分がマジックテープでバリっとひらくパンツ)にはきかえる。産褥パッド(生理用ナプキンが「マンモス用か?」ってくらいでかくなったやつ)をショーツにくっつける。ワンピースのような前開きの分娩用ガウンを着る。よりによって黄色地に白ドット柄。ポップすぎだろ。


しかし体調は全然ポップではない。唸りながら身支度をする。痛いなりにお腹が空いてきたので、入院バッグに入れておいた羊羹を食べた。

 


5時。分娩台にごろんと横になり診察。子宮口は2センチ。10センチまで開けば産める。つまりお産の進み具合は2割程度だ。果てしねえ。こんなに痛いのに。

このまま30分ほどNST(お腹に機具を貼り赤ちゃんの心音と陣痛をモニターするもの)。

ズギュンズギュンと元気な心音が部屋に響く。ほっとしたところで陣痛がくる。ういいい、と酔っ払った大学生みたいな声が出る。陣痛のたびに赤ちゃんの心音がゆっくりになってしまうので「深呼吸して」とメガネ先輩に言われる。御意。

 


私は無痛分娩を希望していた。麻酔をし、痛みを取ってお産をするというもの。(たまたま最寄りの産院が無痛分娩で有名だったのはラッキーだった)

しかし最初から無痛なわけではない。初産婦はお産の進みがゆっくりなので、最初から麻酔を打つと進みが悪くなるため、子宮口が5センチになるまでは麻酔を打ってもらえない。つまりそれまでは陣痛に耐える必要がある。

全開10センチに向かってどんどん痛くなるらしいので、5センチくらいまでは余裕だろうと思っていた。

 


完全に舐めていた。

39週6日までの私を殴り倒したい。

2センチの時点でバチクソ痛いわ

 


陣痛の痛みをどう例えるかは人それぞれだが、私の場合。

全盛期のバレンティンが私の腰にフルスイングしている。

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かつ、肛門からミサイルが出てきそう。

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とにかく下半身が爆裂四散しそうな感じだ。音楽性のちがいで解散しそうな下肢をなんとか繋ぎ止めるべく、正座するような姿勢をとり自分のかかとを肛門に押し当てて痛みを逃す。

まさか自分のかかとがバレンティンとミサイルに太刀打ちできるとはな。

 


5時半。陣痛が5分間隔になった。

メガネ先輩が都度様子を見にきては内診をする。私の産褥ショーツをバリッと開き出血量を確認、「いい感じ〜」と呟きショーツを閉じる。

おむつを替えられる赤子の気分だ。これからそれを産むってのに。

「見込みでいうと今日の夜から明日にかけてかな〜」

えっ、今いい感じって言いませんでした?思った以上に長丁場になりそうですやん。いい感じとは?

まあ初産だしな、と自分を鼓舞した。

 


去り際にメガネ先輩が言った。

 


「7時に朝ごはんくるから」

 


あさごはん、、、?こんな痛いのにメシ食えと、、、?

 


「それまで自由にしてて」

 


じゆうとは、、、?フリースタイル陣痛我慢大会ってこと、、?

 


私の絶望顔を察した先輩、「朝ごはん食べたらお産も進むからできるだけ頑張って食べて⭐︎」と爽やかに言い残し去っていく。

 


6時。痛い。ちょう痛い。

1分間バレンティンにフルスイングされてはおさまって、また5分後に打席がくる。

絶対にホームランを打たれるのに投げないといけないピッチャーの気分だ。絶望的な痛みがくるとわかっているのにどこにも逃げられない。産むまで降板は許されない。しんどい。私の母はこれを4人分もやったんか???よく狂わなかったな!!!いや、狂ったうえであんなハッピーおもろオバチャンになったのか???もうよくわからん!!!


7時。朝ごはん到着。

かなり少なめの量だが食べ切れる気が微塵もしない。とても美味しそうなのに。

陣痛の波が引くたびゼイゼイ言いながら食べ物を口に入れ、タイマーを見ながら次の波が来るまでに咀嚼を終わらせてすべて飲み込み、波が来ては肛門から出ようとするミサイルに悶える。地獄。

全然食べたくなかったが、メガネ先輩の言うことを信じて食べた。

タイマーがズレてパンにジャムを塗ってる最中に陣痛がきたときは思わず「なんでええええ」と声が出た。


7:50。7割残した朝ごはんが回収された。

陣痛は3〜4分間隔になっていた。メガネ先輩が内診をする。子宮口は4センチ。「思ったよりも順調」の言葉にホッとする反面、「まだ4割なの、、?これで、、?」と白目を剥きそうになる。

「順調だから麻酔科の先生が来たら無痛始められそう、9〜11時くらいが目安かな」

痛みの終わりが見えたが、それまでは走り切らないといけない。持ってくれよカラダ…


8時。ほんとうにつらい。

ひたすらひとりで陣痛に耐える。

出産のドキュメンタリーを見てなんとなく「私はこんなに叫んだりしないだろう」とたかをくくっていたが、これは声が出る。叫びまではいかなかったが呪怨のように「あ゛あ゛あ゛あ゛」と言ってみたり、「痛えよ〜」と口調を乱してみたり、お腹の子と自分自身に「がんばれ〜」と言ってみたりした。どんな声を出そうか、と脳を動かさないとこのまま狂ってしまうのではないか、と恐ろしかった。


8:50。メガネ先輩がやってきて

「麻酔科の先生来るからね〜。よく頑張ったね」と声をかけてくれた。

脳内の私があの紙をバッと広げた。

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9時。メガネ先輩じゃない助産師が来た。先輩、夜勤終わったのか。ありがとう先輩。

この人が担当助産師になるらしい。

麻酔科の医師もきた。

この時点で陣痛がつらすぎて、細かいやりとりはあまり記憶がない。

ダンゴムシのように丸まって横向きに寝て、背中に針を刺された。思わず仰け反りそうになるくらい痛かったが、助産師が私の体を抑えてくれたので無事に針が入る。

針が刺さったまま仰向けに体勢を戻すと、腰から脚にかけてツウーーッと冷たい感覚が走る。

「なんか冷たいです」と言うと麻酔科医が「効いたね」とニヤリ。

そういえば、陣痛を感じない。あんなに地獄だったのに。麻酔すごい。医療すごい。これは課金のしがいがある。

私は陣痛から解放された。

ここからは絶飲絶食。左腕の点滴から水分と栄養が補給される。


9時半。点滴経由で陣痛促進剤がログイン。

麻酔がなければ地獄の釜が開くところだが、私は医療に守られているのでへっちゃらだ。

NSTで赤ちゃんの心音を聞きながらうとうとする。ここからは基本的に助産師なしでひとりで過ごす時間が長い。


9:50。ひとりでうたた寝

NSTの機械音がピーピーと響き、起きる。助産師飛んでくる。こわい。助産師は優しく穏やかに「赤ちゃんの心音がゆっくりになっているから深呼吸してね。赤ちゃんも今狭いところに頭を突っ込んでるからしんどいの。」と説明してくれた。そして「酸素を赤ちゃんに送ってあげようか」と言い頭上から酸素マスクが伸びてきた。酸素マスクオン不織布マスク。なんじゃこら。

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深呼吸すると、赤ちゃんの心音は安定した。がんばれ中の人。


10時半。内診、順調。

少しずつ促進剤の量を増やしていく。

進みがよいらしく、破水したらちゅるんと出てきそう、昼ごろに産めるかもとのことなので夫に来院するよう連絡。

夫がくる前に、とカテーテルで尿を取ってもらう。もう恥ずかしいことなど何もない。私の体は助産師に預ける。そしてカテーテルが痛くない。麻酔すごい。

しかし麻酔が効いているのは腰から下のみなので、左腕の点滴が地味に痛くて不愉快だった。

あぐらかいたり好きな姿勢でいてねといわれるが感覚がないので左脚だけ置いてけぼりになっていた。


11時。なかなか破水しないので人工破膜。

麻酔のおかげで濡れた感覚も温かさも感じない。なんか寂しい。

いよいよいきむのか?と期待したがまだらしい。また放置される。

眠いので寝る。


11時半。夫到着。

顔を見た瞬間ホッとした。泣きそう。よかった。生きてまた会えた。

臨月に入ったとき入院準備をしながら考えていたが、バッグにいちばん入れたいのが夫だった。


12時。そろそろ赤ちゃんを出していいころらしい。

はじめましての医師が入室する。よろしくお願いします〜。とのんびり挨拶する。

助産師が呼吸の仕方、いきみかたを教えてくれる。

夫は私の頭の後ろに回り、いきむタイミングで頭を支える係。

助産師がモニターにうつる陣痛の波形を見ながら「吸って〜、吐いて〜、大きく吸って〜、はい!(いきんで)」と声をかける。

何度か繰り返したがなかなか出てこない。

「切りますね」と、医師。「わかりました」、と私。なにを?と思うだろう。産道が狭くて赤ちゃんが出てきにくい場合、出口を広げるために切開するのだ(文章にするとめちゃくちゃ痛々しいな)。

いろいろ予習してきたので承知の上だったが、「あ〜これ産後痛いんだろうな、座れるのかな」とか「麻酔のおかげで全然痛くないけど、皮膚をジョキジョキ切られる音ってめっちゃグロいな、夫は大丈夫か?」とかのんきに考えていた。


切開後も引き続き「呼吸、いきむ」を繰り返す。頭は見えているがなかなか出てこない。

トイレのスッポンと掃除機が悪魔合体したような器具を赤ちゃんの頭にあて、いきむのに合わせて医師が引っぱる。数回繰り返す。出てこない。


病室に響いていた赤ちゃんの心音が、ゆっくりとしてきた。これあんまりよろしくないのでは?と思いつつ深呼吸をし赤ちゃんを応援する。


病室内にわらわらと人が集まってきた。私、夫、医師、担当助産師、看護師の5人だったのに、いつの間にか助産師と看護師が増えている。スタッフだけで8人いる。なんだなんだ。そんなにやばい感じ?


のんびりと色々考えていた私に反し、医師は少しだけ切羽詰まった様子で「上から押して!」とニュー助産師に指示した。

私の右側に、ガタイの良い助産師がきた。台の上に立っている。

「あっ、結構打点高めなんスね」という私の呟きは現場の空気にかき消された。

ガタイ助産師が私のお腹を押す。それはもうめちゃくちゃに押す。肋骨の下あたりをぐいぐい押してくる。久々に痛い。人為的に痛い。腰から上は痛みを感じるの悔しい。

理不尽さにイライラしたが、汗を吹き出しながら私と赤ちゃんを助けようとしてくれるガタイ助産師に「痛えよ」だなんて言えるわけもなく、ひたすら耐える。


出てこない。赤ちゃんの心音がわからなくなってきた。ヘルプ助産師が「小児科の先生呼んでおきますか」と医師に指示を仰ぐ。

そんなにやばい感じ?


私はいきむ。ガタイは押す。医師は引っぱる。担当は指示する。チーム戦だ。

ガタイの鬼プッシュにより、肋骨やばいな〜折れてるかもな〜と私が考えてる間、夫は「妻が殺される」とめちゃくちゃ怖かったそうだ。

(「あと1回いきんで出てこなかったら『帝王切開してくれ』って頼もう」と半泣きになっていたらしい)


数回のチャレンジ後、赤ちゃんが出てきた。

脚の間からチラッと見えた赤ちゃんは、首に臍の緒をぐるぐると巻いていた。しかも3周。そりゃあ苦しかったろうな。心音もゆっくりになってしまうわな。

赤ちゃんを見た私は思わず「すっごい巻いてる〜」と言った。なんとも間抜けな第一声である。

出てきた赤ちゃんはすぐさま小児科の先生に連れていかれた。すこーしだけ、「ふええ」と泣いた。

「ご主人は赤ちゃんと一緒にこちらへ」と促され、夫が分娩室の外に出て行った。

外から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。小児科医の「大丈夫ねえ!元気よ!」という声が聞こえてきてひと安心。


終わったのか…疲れたな…

感動して泣いたりしない自分にちょっとがっかりしたが、やり切った達成感に浸っていた。


結果的に、我が子は「回旋異常」でやや難産だったらしい。本来であれば産道を回転しながら出てくるところを、臍の緒のせいもあって上手に回れなかったようだ。


「産後の処置をしますね」と医師が私の股の間でいろいろやっている。子宮の中をキレイにしたり、切開したところを縫っている。皮膚がツレて不快な感覚がある。処置が終われば麻酔はおしまいだ。

看護師が天井から下がっていたテレビの電源を入れた。赤ちゃんが連れていかれたスペースに繋がっているらしく、モニターにふにゃふにゃの息子が映っている。

凄まじい手際で身体測定されている息子。ひとつひとつの項目に軽快に相槌を打つ夫。


1時間ほど(体感)で産後の処置が終わり、麻酔の針が抜かれた。麻酔科医が「無痛分娩どうだった?」と聞きにきたので「最高でした」と答えると嬉しそうにして帰っていった。なんやねん。


そこからまた1時間ほど横になる。

戻ってきた夫と話しながら過ごす。

麻酔の副作用で高熱が出たり、喉が渇いているのにまだ飲食の許可が出なかったりで大変だった。

夫は私に気を遣って飲み物を飲まなかった。いいのに。


麻酔が抜けてきたころ、赤ちゃんが病室に運ばれてきた。

私の中にいたのは本当にヒトだったんだなあ、と、不思議な感覚で息子を見つめる。

夫と息子と私で写真を撮ってもらい、息子は新生児室へ。夫は帰宅。

 


ここから合宿のような入院生活が始まるが、それはまた別の機会に。


・すぐに授乳を諦めるパクさん

マッサージチェアの住人

・退院健診で私のカルテを見て「逆回転の子ダァ!」と興奮する院長

 


このあたりは書くよりも会って誰かに喋りたい。

 

 

 

不妊治療 体外受精③移植・判定日編

「妊娠するまで伸ばす!」と決めた髪。

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ショートだったのがセミロングになるまで伸びてしまった。時の流れは残酷だ。

鏡を見るたび、かかった月日を思ってズドンと気が重くなるので色々と断ち切りたくて文字通り断髪した。

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やはり扱いやすい。最高だ。

願掛けが向いてない性格なのがよーく分かった。人生常に勉強だな。


自分を好きでいられる方がいい。ショートの方が自分らしくいられる気がして好きだ。

ストレスはよくないって言ってたしな。


コロナワクチンの副反応を乗り越え、ついに移植当日。

2021年10月。

採血。異常なし。

移植自体は2月以来2回目か。感慨深い。

手術室を出ても、お腹にたまごがある実感はなくいつもどおり。

器具が股を出入りしたので生理痛のようなズンと重い感覚のみ。

会計¥88,649-


判定日は6日後。

抗生剤とデュファストンを処方される。

胚移植後 過ごし方」でググる日々。

自分を妊婦だと思って生活してください、とのこと。

体を冷やさないこと、飲酒喫煙をしないこと、激しい運動をしないこと等。

そわそわ、胃がキリキリ痛む6日間だった。


判定日当日。

陰性判定の夢を見る。しかも2回。

やめてくれよマイ脳。

 


クリニックに到着。

採血をする。配偶者の付き添いNGになっていたのでひとりきりだ。

胃がめちゃくちゃ痛い。こわい。


問診室の前に呼ばれた。

もはや胃が出そう。異物飲み込んだら胃ごと洗うカエルいたよね?と余計なことを思い出す。

今私が胃を洗い始めたらクリニックの業務が滞ってしまうので、ほかの来院患者のためにやめておいた。

 

問診室のドア。1回目の陰性判定のときと同じドア。

つらい思い出がよぎる。

中に呼ばれるのをじっと待つ。揺れてる?地震か?と思ったら私の心臓がうるさいだけだった。

トイレに行きたい気もしてきた。内臓各所が何らかのサインを発している。あーもうだめだ、心臓が痛い。採卵のときに握らせてもらったデカいお手玉みたいなん今欲しい。


呼ばれた。ドアを開ける。

医師がA4の紙ペラを私の前に提示する。

 


「β-HCG 31.3なので今回着床しています」

 


え、なんて?

あまりにもサラッと言われたので理解が追いつかない。


紙をじっと確認。

初回の移植ではゼロだった数値が今回31.3。

あっ、先生がボールペンでグリグリと丸をつけた。


医師はふたたびサラッとひとことつぶやいた。

「おめでとうございます」

 


お、おおおおおおお

陽性ってことか。いま宿ってますよということか。

 


「あ…ありがとうございます」

自分ののどから出た声が震えていた。

 


次回の来院について説明を受ける。

今の時点で妊娠3週。

・5週で胎嚢確認(子宮内に赤ちゃんの袋があるか)

・7週で1回目の心拍確認(赤ちゃんの心臓が動いているか)

・9週で2回目の心拍確認

これが終われば不妊治療クリニックは卒業とのこと。


次の来院日に予約を入れ、診察室を退出。

医師が丸をつけたプリントを震える手で受け取った。


会計待ち。待ち合いロビー。着席。放心。とりあえず夫にLINE。

すぐ返事きた。喜んでくれた。

 

およそ2年。

ずいぶん長い道のりのように感じた。

鉛を飲み続けるような生活だった。

100万円近くかかったし、治療と仕事の両立もしんどかったがついにここまでこれた。

 

 

 

2022年3月下旬。

このブログを書いている現在は妊娠26週め、もうすぐ妊娠8ヶ月、といったところだ。

6月末出産予定。

 


妊娠判明してから現在に至るまでも様々な不安やトラブル、おもしろいことがたくさんあったので今後記事にしていきたい。


ブログを読んで応援してくれたみなさまに感謝です。


産まれるまで、産まれてからもどうなるかわからないけれど、引き続き見守っていただけると嬉しいです。

不妊治療 体外受精③採卵編

2021年7月。

落ち込む暇なく、ふたたび採卵周期に入る。

またクロミッドを数日服用。


卵巣のエコー、卵胞はひとつ。

不思議だ。同じ体、同じ薬でも結果が違うのだな。


たったひとつか。不安だ。

先月は卵胞3つに対して卵いっこしか取れなかったうえに未成熟だった。

今回は卵胞がひとつだけ。恐ろしいな。空砲だったらどうしよう。わらえん。


採卵前日は

怖いよー不安だよー

今さらぴいぴい喚いたとて良質な卵になるわけでもなかろうもん

254167往復した。


採卵当日。

本人確認のための静脈認証に毎度毎度時間がかかるのだが、(右手何回かやってだめ、左手何回かやってようやく反応)この日にいたっては全く反応しなかった。私の体はどうなってしまったのか。

免許証を見せて本人確認をし、バーコード付きのリストバンドを巻かれた。


いざ手術室。

採卵直前、卵胞がもうひとつあることがわかる。

隠し卵胞ね、わかったわかった。もう期待してないぜ。痛いのが増えるだけです。


しかし、相変わらず不快な痛みである。

胸の上で手をぎゅうっとして耐えてたら、看護師さんが巨大なお手玉みたいなん持ってきて「握ります?」って言ってくれた。握った。なんかよかった。


満身創痍で割り振られたベッドへ。

看護師が速報を持ってきてくれた。

卵子は2個とれていた。

 


培養士の説明。


とれた卵2このうち

ひとつは成熟卵→ふりかけ体外受精チャレンジ

もうひとつは未成熟卵→成熟するか様子見→成熟したら顕微受精

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そして今日も夫のおたまは超優良…

相変わらずの優等生っぷり。

成果に驕らず、毎回しっかり節制してくれているおかげである。


とにかく、今回はいい卵子が採れた。

それだけでホッとした。


次の日

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未成熟卵は未成熟のまま成長せず。

ひとつ残ったたまごちゃんに賭ける。

 


採卵から1週間

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やったー!!!!

胚盤胞まで成長した!凍結できた!

嬉しさよりも、安堵が大きかった。やっと一歩進めた感じがした。

 

余談だが、この凍結確認を電話でしないといけないクリニックもあるそうで。

それってアカンかったとき伝える側も受け取る側も両方辛くない?しんどない?わしゃあ無理じゃ。

 


さて、胚盤胞凍結に至ったわけだが、移植をいつするか?という話になった。

最短だと次週期の8月だが、結果として延期することにした。

先のブログでも書いたが、理由としてはワクチン接種が大きい。

移植後の接種は問題ないとされているが、妊娠超初期の高熱(副反応による)で、貴重な胚盤胞がどうにかなってしまったら悔やんでも悔やみきれない。

 

心の葛藤がすごかった。

愛しさと、切なさと、ちょっとでも早く進めたい気持ちと、なるべくリスクを減らして移植に臨みたい気持ちと、もう採卵やりたくないから今残ってる唯一の凍結卵を絶対に絶対に無駄にしたくない気持ちと。という感じ。


自分自身と夫とも相談して、10月に移植することを決めた。


10月の移植までに体質を改善することにした。

ネットで色々調べた。


着床率を上げるためにできること

【食事編】

・良質なタンパク質を摂る

・糖質を抑える

・いい油を摂る

・妊娠のための栄養素を摂る(ビタミンD、鉄分、葉酸亜鉛


【習慣編】

・適度に運動する

(立ち仕事を運動と認定していいですか1日1万歩余裕で超えます)

・良質な睡眠をとる

(できるものならずっと寝ていたいです)

・体を冷やさない

(温活は得意です湯船に浸かります)

・ストレスを溜めない

(それは無理ゲーです)

 

これからの自分の一挙手一投足で妊娠の合否が変わるかもしれない。選択の分岐を間違えたら即ゲームオーバーになるRPGみたい。やり直しすりゃあいいんだけどさ、ワンプレイ何十万もするんですよね。ものすごいプレッシャーだ。


こんな思いをせずとも、何を考えなくとも子を授かれる人はいるんだし、何をやったところで私の体の細胞が入れ替わるわけでもなければ凍結中の受精卵がはちゃめちゃにいいグレードになるわけでもない。ジタバタしても今さらなにも変わらんのだ。


いい意味で諦めながら、開き直りながら日々を健やかに過ごすのがいいんだろうけどな〜!!!理想論〜!わたしゃそこまで人間ができてねんだよナア〜〜〜!!うじうじしちゃう〜〜!

 

精神修行も課せられる。これが不妊治療である。

不妊治療 体外受精②編

初めての体外受精の後、体調と心のバランスを崩してしまったので2ヶ月治療をお休みすることにした。

そのあいだに思いっきりキャンプをした。

もはや悔いなし、といえるくらい存分に夫婦の時間を楽しんだ。


2021年6月、治療再開。

前回、初期胚移植で陰性だったので

今回は胚盤胞移植だ。

初期胚をもう少し育てて、「胚盤胞」にしてからそれを凍結し、次周期に移植するもの。

胚盤胞、名前だけみるとなんか強そう)


初期胚移植との違い。

胚盤胞移植のほうが妊娠に至る確率が高い。

しかし凍結代や保存代等、かかる費用がドドンと増える。


また、新たに増えたのは

クロミッド という薬の服用。

卵子の質を高める、夢のような薬だ。

ただ副作用があり、子宮内膜(子宮内における赤ちゃんのベッド)を薄くしてしまうらしい。


クロミッドを数日服用し、クリニックにて卵胞・ホルモン値評価。


卵胞が2個あった。

複数個なんて初だ。すごいぜクロミッド

 

しかし内膜が4ミリ。

いつもは10ミリ以上ある。

着床に必要な厚さが最低限8〜10ミリであることを考えると、ばっちり副作用が出ている。

4ミリか。やばいなクロミッド

そんなせんべい布団みたいな内膜に、大事な大事な胚盤胞さまを移植するわけにはいかないわけで。

 

胚盤胞移植の流れは

採卵→体外受精胚盤胞まで成長すれば凍結→ペラペラ内膜は生理でリセット→次の周期のふかふか内膜に移植

となる。つまり最低2ヶ月かかる。


例のごとくシフト調整してもらう必要があり、周りにペコペコ、もとい、協力をいただきながら採卵の日を迎えた。


2回めとなれば慣れたものだ。

ピンクの手術用ガウンに着替え、手術台へ。


笑ってはいけない手術室。

下半身丸出しで名前と生年月日を言わされる。

ここまではいつもどおり。余裕すらある。


モニターに卵巣のエコーが映し出される。

以前の診察のとおり、左側の卵巣に卵胞が2個。

ここで唐突に理解した。

「あの不快な痛みを2回分も味わうってことか?これから」

一気にブルーになった。しかし、私の両脚は手術台にガッチリ固定されている。逃げられない。(まあ逃げないけども)


医師「ひとつめでーす」


私(んぎぎぎぎぎ…痛い…不快…痛い…)


医師「ふたつめでーす」


私(ぎええええええ…耐え抜け…よし…終わり…)

 

 


医師「右の卵巣にもうひとつ卵胞あるのでこちらも吸いますね〜」

 

 

 

私(は?????)

 

 

 

決死の思いで耐えたんだが????

右に隠れ卵胞とか聞いてない。

クロミッドめ。お前のせいだろ。

いやありがとうございます。いや許さん。

反復横跳びする感情。

 


私「…お願いします(ンギェェェェェ)」

 


採卵が終わり、割り振られたベッドに戻る。

満身創痍である。

 


ぐったり横たわっていると看護師が採卵の速報を持ってきてくれた。

 

獲得卵子数:1個


いや、なんでやねん!!!!

痛い思い×3して!!!結局1個て!!!!

思わせぶりな卵胞め!!!!!

1個しか採れないなら吸わないでくれ!!!痛いんだからさあ!!!!!

…嘘です薬で操作した卵胞を放っておくと良くないのはネットで調べましたお医者さん吸ってくれてありがとうございます


ベッドでしばらく休み、血まみれのガーゼを股から抜き、身支度をして別フロアへ。

培養士からの説明。

 

結局、取れた1つの卵子は未成熟卵だった。

不完全なたまごだ。

明日まで成長を見守り、成熟したら顕微受精をする方針らしいがあまり期待しないで、と言われた。

成長しなかったら培養中止になるそうだ。


そして、夫の精子の成績は今回も超優良だった。


説明を聞きながら、視界がぐわんと歪むのを感じた。

また私のせいだ。私が足を引っ張っている。

薬も飲んだのに。それでもダメなのか?

子どものいない未来が頭をよぎり、待合室の端で声を殺して泣いた。


採卵から4日後、クリニックから連絡がきた。

 

未成熟卵は、なんと無事に成熟した。

顕微受精も無事に正常受精。

一発逆転あるか。さあ胚盤胞になってくれ。

 

 

採卵から1週間後、クリニックから連絡。


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残念無念。凍結にも移植にもたどり着けなかった。無力感。

またやり直しか、と落ち込む。

妊活アカウントで仲良くなった子たちとモンハン大会を開催し、LINE通話で「採卵やだよー!!」と言いながらモンスターを蹂躙した。

仲間がいるってありがたいな。

 


かかったお金

¥349,925-

顕微受精は高い。

移植までもたどり着いてないのにこんなにかかるんか、と愕然とした。

30万は助成金で返ってくるとして5万弱は持ち出し。

5万あれば良い焚き火台が買えるぞ。

 


保健所へ申請にいく。

2回目ともなればサクサク。

 

 


そして、子宮は空っぽのまま結婚5周年を迎えた。

 

 


去年も行った鰻屋でしっぽり飲んだ。

結婚記念日だということから子どもの話になり

まだなんです〜と話してたら鰻屋のおばちゃん従業員に

「もう少し太った方が(妊娠するには)いいわね〜」なんて悪気なく言われた。

心に濁流が押し寄せそうになったが

「これ(鰻)いただいて体力つけますね☆」と大人の対応をして、日本酒で全部流し込んだ。

 

 

1時間弱かけて夕涼みしながら歩いて帰り、玄関先で花火をした。


寝る前に5年間を振り返ってぽつぽつと話した。

夫の言葉に救われたので備忘録的に残しておく。


「今までの5年で分かったのは、2人でも楽しく生きていけるってことだね。僕も子どもが欲しい気持ちはとても強いけど、君がいれば人生は最高ってこと覚えておいてね。」


「これからの5年はきっと変わるし、変わろうと取り組んでること(妊活)は間違ってない。やれるとこまでやってみて、もしダメだったとしても2人で楽しく生きていこうね。あっでも子どもはちょう欲しい!!!欲しい!!!」

 

ありがとう夫よ。

もう少し頑張ってみるよ。

一緒に頑張ろうな。

かじかむ指ひろげて

人に必要とされたい、という欲求が強いほうだと思う。

そりゃあ「いてほしくない」と思われるよりは良いだろうが、「いてもいなくても」よりは「いてほしい」と思われたい。


後輩に「(私)さんとシフトが一緒だと嬉しいです」なんて言われた日にゃ「一生守ってやるぜ、ビッグラブ…」となるし、お客さまに「今日(私)さんがいるといいな、と思ってました」なんて言われたら商品代金を全額負担したくなる(アカン)


この欲求のルーツはきっと、私自身の家族構成に由来する。

私は4人きょうだいだ。

姉、私、弟、弟。気ままな次女というポジション。そして実家は寺である。


多感な時期に、悪癖を発揮した。

「私は生まれたとき、周りをがっかりさせてしまったのではないか?」


姉は第一子だ。無条件で誕生を喜ばれる。

弟は長男だ。待望の跡継ぎ扱いされる。

次男の弟は末っ子。末っ子らしく可愛がられるだろう。

では、私は?

また女の子か、次は男の子が良かったね、3人目期待だね、なんて母が言われてたらどうしよう。私のせいで。

寺における真ん中っ子次女の価値とは?


※周りの親族の名誉のために注釈するが、いらない子扱いされたことは一切ない。特に母は4人とも分け隔てなく優しく厳しく育ててくれたと思う。なのにどうして私はこんなにも捻くれてしまったのか。母曰く「あんたは昔から感受性が強くてなあ」とのこと。ただの個性だった。


幼い頃の私は、家庭内で自分のポジションを確立するため必死だったように思う。

両親ともに愉快な人格ゆえ、いつも家庭には笑いがあった。面白いが正義だった。

なので私はとにかく喋った。構って欲しかったのもあるが、とにかく喋った。姉と弟ズが大人しいのをいいことに、特に母に話しかけまくった。母が笑ってくれるのが嬉しかった。

同年代より大人と話すのが好きだったので、母と話すのは楽しかった。

母が夕飯を作っているのを邪魔にならない位置(重要)で眺めながら、1日の報告に始まり思いつくことをなんでも話した。

どんどん出来上がっていく夕飯をキッチンから食卓に運ぶというお手伝いもついでに行う。今思えばあれもポイント稼ぎだったのかもしれん。


中高生になるころには親の愛だけでは飽き足らず、他人に特別扱いされたい欲求が高まっていた。

反抗する生徒が多いなか、教師に媚びを売ることで気に入られようとした。(敬語が使えない頭の悪いやつと思われたくなかったというのもあるが)


友情よりも恋愛を取った。中高生の恋愛なんてほぼ性欲だ。友達を思う感情よりも性欲の方が強烈で、衝動的で、汚くて、強い。

モテるために何をするかを常に考えていた。近付く余地を見せるために同性とはつるまず一匹狼でいた(ぼっちともいう)。異性とは友だちとして接するが、よく笑い聞き役に徹し、ギャアギャア喚かずとにかく「他の女子とは違う」アピールをした。適度にスキを見せ「いけるかもしれん」という男子の欲につけ込み相手の気持ちを限界まで温めた末にひらりとかわす、みたいなことをやっていた。私のことで頭いっぱいやん、と思った途端に満足してハシゴを外す。

今思い返してもひどいな、ただのクズだ。


相手を傷付けてでも、必要とされていると感じたかった。十代の私はとにかく寂しかった。

 


幼き日々の愚行はともかく、この承認欲求は今の仕事にも影響しているように思う。

社会に出てからはずっと接客業だが、お客さまにとって特別な存在になりたい、と強く思っていた。

しかしその思いだけではうまくいかず、自分の思い通りにいかないことがあったときには態度に出てお客さまを怒らせてしまった。

「こんなに一生懸命やってるのに何で文句言われなきゃいけないんだ」「認めないアンタがおかしい」とぶつくさしていた。


相手を傷付けてでも、自分の存在を示したかったのだ。寂しい人間だ。

拗らせた自意識が大人の私をがんじがらめにしている。

 


他人に必要とされるには、与えられる人間にならないといけない。欲しがってばかりの私にはほど遠い。


まだまだ未熟だけれど、自己研鑽こそ人生だろうからトライアンドエラーでやっていくしかない。もがくのが私の人生だというのは不妊治療で身に染みている。

 

 

 

カーネーション椎名林檎

不妊治療 体外受精①移植・判定日編

採卵翌日14時、クリニックからメール。正常に受精し3細胞まで分割しているらしい。

すでに可愛い。生命ってすごい。

採卵後に処方された抗生剤が私のお腹をぶっ壊していたがひとまず安心が勝った。


採卵の2日後、体外で育った胚を体内に戻す。

胚移植だ。


クリニックに来院すると、まずは培養士から今回の胚について説明があった。

・細胞は5分割まで成長

・グレードは3

(1〜5あり、1に近いほどよい。1〜3の妊娠率に大差はない。4になると妊娠率はガクッと落ち、5は移植しても子どもにならないから移植しないそうだ。)

・移植までの時間に4に落ちることはなく、グレード2になる可能性も十分にある

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グレード3か…自分の年齢を過信してたなと恥じいる。低空飛行であることは否めないが、移植できるだけで御の字だ。あとはたまごちゃんと自分のカラダを信じる。


40分ほど待ち、手術室があるフロアへ。

ピンクのガウンに着替えお手洗いを済ませ、ベッドに待機。

手術室に呼ばれる。いざ!

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モニター内の名前確認、静脈確認、手指消毒。

下半身丸出しで脚を開いて手術台に上がる。

「本人確認のため名前と生年月日をお願いします」

個人情報を告げる。個人情報がやまびこされる。

だめだ、やはりおもしろい。だが、笑ってはいけない。ここは手術室だ。


医師が私の股を消毒している間に、枕元にいる看護師からの指示。

奥の空間にある大きいモニターを見るように言われ顔を左に向ける。小さい粒がある。

「これが胚です。これをいまからカテーテルで吸い取り、移植します。」


いのち。そこにいのちがある。まだちっちゃい細胞だけど。もうかわいい。どうしよう。


涙で見えにくいモニター内では、小さい粒にストローのような筒が近付いている。


あっ、吸われた。


いつのまにか私の股には超音波の機器が挿入されており、顔の右にある枕元モニターには子宮内のエコー画像が映されている。


培養士が何かを持って医師に近づく。下腹部に少し圧を感じる。カテーテルが子宮内に入っているようだ。画面内では白いストローがおずおずと子宮内を進んでいる。

ストローから白い小さな粒がプッと吹き出された。


看護師「今、胚が子宮の中に置かれました」


おおお。すごい。

小学生並みの感想しか出てこない。


医師「カテーテル内に胚が残っていないか確認します」


徹底している。安心だ。


「残留なしです」的なことをやまびこされたのち、私は手術室を出た。

20分安静。遠慮なく寝た。


しばらくして看護師がカーテンをめくり尋ねてきた。体調は問題ないか聞かれたあと、新たな処方薬の説明。

デュファストンという、黄体ホルモンを補充する薬だ。子宮内を着床しやすい状態に近付け、着床後は妊娠状態の維持に役立つそうだ。これを12日分1日3回飲めとのこと。

ツイッターの妊活戦士たちが飲んでいたものを、ついに私も飲むようになった。デュファストン、名前だけは知っていてよく目に入ってくるけど処方されたことはない。まるで芸能人に会った気分だ。


会計を待つため待ち合いフロアへ。

有名人(薬)に遭遇し、にわかにウキウキしていた私の前にとんでもない請求額が飛び込んできた。


¥140,437


じゅ…じゅうよんまんえん!!!!

いや、知ってたけど!!!!

ホームページやら口コミやら隅から隅まで見てたから知ってはいたけども!!!!

ほんとに払うんだね!?←


※これでも初回治療のみの「成功報酬制度」を利用していたのでこの程度でした。このまま妊娠成立したら成功報酬を追加で納めることになります。もしそうならトータル5〜60万円くらいになるのか?さぶいぼ出ますね

※クリニックごとに料金やコース設定は全然違います、これはKクリニックの場合です


クレジットカードで支払い。ポイントめっちゃ貯まるなこれは。

 


妊娠したか、してないかの「判定日」は12日後。生理予定日の前日くらいだ。

生理がきてしまっても採血による判定をするので必ず来院してくださいとのこと。


判定日までの間は、極めて大人しく過ごした。念のため自転車には乗らず、禁酒もした。生ものも控えた。カフェインレス生活になった。

 


判定日は土曜だったので、夫がクリニックについてきてくれた。

緊張する、と私があまりにも喚くもんだから、見かねた夫が「陽性ならたまごクラブを買って帰る。陰性なら寿司と日本酒。どのパターンでも楽しみを作っておこう」と提案してくれた。

相変わらず神か?夫の優しさに心がホッとした。


夫「たまごクラブ、ひよこクラブがあるなら終活クラブとか作らないのかな」

私「表紙のフォント変わりそうやな」

夫「♪おわりクラブ・ひつぎクラブ♪」

私「(とんでもねえな)」


夫「荼毘クラブ♪」


_人人人人人人人_

> 荼毘クラブ <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


もしも子どもが望めなかったとしても、このひととなら一生ふたりで生きていけるな。と荼毘クラブが出てきたときに感じたものである。

 


クリニック到着、即採血。


待合室で待機。夫が隣でコーヒーを飲んでいる。羨ましい。


診察室に呼ばれた。心臓がバクバクしている。

転院後一発で授かった、夫の部下の方が頭によぎる。あれ、これで晴れて妊婦になったらわたし大丈夫?やり残したこととかない?一生いまの体には戻れないってことだよね。いや、今さら後には退けない、行くしかない。


医師を前に、椅子に腰かける。

A4の紙ペラが差し出される。検査結果だ。

「(数値のひとつを指差して)ここがゼロになっているので、残念ですが今回は着床していません。」

 


だめだった。ゼロか。そうか。

 


待合室で待つ夫には、だめだった、と報告した。と思う。

正直自分がどんな様子だったか覚えていない。

 


会計の¥7,000を払うとき「これ、何にかかった7千円なんだろう」と思ったことだけ覚えている。

 


そのあとふたりで餃子を食べ、歩きながらコーヒーを飲み、夜は寿司と日本酒を流し込んで帰宅した。

笑えていたと思う。

夫が隣にいてくれて、ただただありがたかった。

 

 

「妊娠してたらどうしよう」だなんて甘いことを考えていた割に、一連の苦労がドッと思い出された。胃に墨汁が流れ込んでくるような気持ちだ。恥ずかしくて重い。ぐちゃぐちゃだ。

 

しかし、前に進んだ。経験ができた。やるかやらないかで悩んでいたときよりよっぽどいい。

また頑張ればいい。お寿司美味しかったし。

 

 

メンタルは寿司(と夫)によりV字回復。

かかった費用の領収書をかき集め、保健所に「不妊治療助成金」の申請をしにいく。今回かかった約18万はまるまる助成金で返ってくるっぽい。

※今までの制度だと我が家の場合所得制限に引っかかっていた。そして最大補助額が15万円までだった。自治体によって助成額は違うが埼玉はめっちゃ充実しているらしい。

サンキュー助成拡充。サンキュー菅総理

 


保健所の帰り道、可愛い赤ちゃんとすれ違った。ほんのちょっとだけつらかった。

不妊治療 体外受精①採卵編

クリニック到着。精子提出。静脈で本人確認もされる。徹底している。


私の受付番号が、行ったことのないフロアに案内された。

カーテンが引かれたベッドがずらりと並んであり、奥から手術着を着た患者がヨタヨタと出てきている。奥が手術室のようだ。


下半身の服をすべて脱ぎ手術着のガウンに着替え、手術キャップを被るよう指示される。

すっごいピンク。ビビるほどベビーピンク。全然趣味じゃない。


トイレに行くよう指示され、また10分ほど割り当てられたベッドで待つ。

どれくらい痛いのかしら、といらんことを考え始めてしまった。

注射器で吸い出すっていうのだから、採血と変わらない感じ?でも病院によっては局部麻酔や静脈麻酔で行うところもあるし。

Kクリニックは髪の毛よりも細い針だから痛みが少ないよ〜っていうのが売りだそうだが、元美容師から言わせたら


髪の太さは!!!!!

個人差が!!!!

あるんや!!!!!!


めっちゃ細い髪よりも細いって認識でおけ!?

と半ばキレそうになる。

 


カーテンの外ですすり泣きが聞こえてきた。手術室から出てきてすぐのようだ。看護師が「痛かったね。びっくりしたね。大丈夫ですよ、ゆっくり休みましょう」と患者に声をかけている。


こんな!!!!

直前で!!!!

やめてくれよ!!!!

めっちゃ怖いやんけ!!!!!


名前を呼ばれた。手術室の横のパイプ椅子で待機。心情的には最悪のタイミングだ。心臓がドラムロール状態。口から出そうってこのことか。

 


手術室に呼ばれた。いよいよだ。

手指消毒。静脈認証。モニターに表示された名前と生年月日が合っているか確認。体重を測る。


手術室は薄暗い。手術台は内診台の機能もついており、足がかっぴろげられるようになっている。

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(こんなイメージ。実際はもっと暗くて、患者の股周りだけ明るい。お股・オン・ステージ状態)

下半身丸出しで台に横たわる。いつものご開帳スタイルだ。カーテンがないぶん、いつもより恥ずかしい。

 

ここで看護師

「本人確認のため名前と生年月日をおっしゃってください」


えっ!!

この状態で!?

丸出しやで!?どういう罰ゲーム!?

いや、いいけどさ!!!


脚ぱっかんの状態で、言われた通りに個人情報を伝えた。

看護師がやまびこする。

「〇〇さん、〇〇年〇月〇日生まれです」

めちゃめちゃシュールだ。

「これはおもろい、あとで夫に話そう」なんてのん気な考えがよぎったが、おかまいなしに採卵がスタートする。


卵巣内を映す機械がまず挿入される。枕元のモニターを見るように指示される。

これが卵胞です、これの中身を今から吸い出します、と。

悠長にハイ、ハイ、と返事をしていたところ、医師から


「チクッとします」のかけ声。

針が刺さっていく。


ん?耐えられるくらいかな?

んー。違うな、これは痛い。

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あああああああ痛い、痛いわ。

痛いのと不快感がすごい。

耳の穴をアカンところまで掃除されている感じ。ギイイイイと目を瞑りたくなる。脚を閉じたい。痛い。

イラスト検索したけど、見てるだけで痛い。

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子宮め、笑ってる場合ではないぞ。

 

痛みに耐えていると、看護師が肩に手を添えてくれている。人肌っていいな…いや痛いけど…

針の先が卵胞に刺さりました、吸い取ってますよ。とのこと。モニターを見る。

卵胞だと言われていた丸がどんどん小さくなっていく。

 


医師「最後まで吸い取るため針を少し動かします」

 

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いだだだだだ!!!!!

やめえ!今すぐやめえ!!!

なあにが「髪の毛より細い針」じゃあ!

グリグリすなあ!!!!

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イマジナリー千鳥ノブが私の脳内で大暴れしている。


ひたすら耐え、痛みのピークが去った。注射針が抜かれたようだ。

止血のためにガーゼが挿入される。


医師「ガーゼ2枚入ります」

看護師1「ガーゼ2枚〜」

看護師2「ガーゼ2枚〜」


手術室はラーメン屋ですか?高学歴たちがやまびこしている。(のちのち理由がわかる)


ともかく終わったらしい。看護師の誘導でヨタヨタしながらベッドに戻る。お股からはガーゼの先がピロピロとたなびいている。


「ベッドでしばらく横になって安静にしてください」


遠慮なく横たわる。

終わったのか。下腹部が生理痛のような鈍痛だ。ちょっと気持ち悪い感じがする。

ほっとしたのか、緊張の糸が解けたのかちょっとだけ涙が出てきた。


5分くらいで看護師が入ってくる。採卵結果の速報と、これからの流れの説明だ。

卵子は1個採れた

・あと20分くらい休め

・その後トイレ行ってガーゼを抜け、2枚入ってるか確認せよ

・トイレットペーパーに血が付かないか確認せよ

・トイレから出たら看護師にガーゼ枚数を報告せよ


手術室でのガーゼやまびこは、体内に異物が残らないようにするためか。なるほど。


20分後、まだ鈍痛は薄ぼんやり感じるものの動けないわけではない。看護師に誘導されトイレにいく。

ところどころ血に染まったガーゼが自分の股からズルズルと出てくる。軽いホラーだ。

血は止まっているようなので、トイレの外で待機している看護師に枚数を伝える。


体調が悪くなければ身支度を整えて待ち合いフロアで待機、培養士と医師からの説明があるとのこと。


エレベーターに向かう廊下から、ガラス張りになった培養室が見える。

どうかよろしくお願いします、と小さく手を合わせた。


培養士と医師からの説明。

卵子の状態は特に所見なし、悪くないです。精子の成績は平均以上でとても良いです」

億男め…!頼りになるぜ、夫!!

精子の成績が良いので、このまま卵子精子をふりかける形での体外受精を試みます。正常に受精し、細胞が分割したら翌日メールにてお伝えします。順調に進めば明後日、新鮮胚移植(凍結せず新鮮な状態で体内にもどすこと)を行います。」


とんとん拍子だ。今日採ったやつは明後日に戻すのか。考えたひとすごいな。


お会計、40,000円。

明後日ビビるほどの金額を請求されることを、私はまだ知らない。

 

移植、判定日編へ続く