アラサー女の二死満塁ブログ

ピンチでもありチャンスでもある

無痛分娩 出産レポ

※痛い表現、痛々しい表現が多々登場するのでご了承のうえお読みください。

 

2022年6月30日

日付が変わった。

妊娠40週0日、いわゆる「出産予定日」がやってきた。

予定日と言いつつも、その通りに生まれる確率は5%らしい。

このまま超過して7月生まれになるのかなあ、なんてのんびり考えながら眠りにつこうとしていたところだった。


夜中1時。お腹がほんのり痛い。

胃と子宮。どちらもお腹と呼んで相応しい臓器の両方が痛い。

子宮のほうは予定日以前も"前駆陣痛"という陣痛のリハーサルみたいなものが起こっていたので

「今夜もまた前駆かな〜地味に痛いから嫌なんだよな〜」と夫に愚痴っていた。


3時。明らかに痛い。痛くて手がガクガクする。汗が止まらない。

腰を押し潰されるような、重くて鈍い痛み。いままでの"前駆陣痛"と全然違う。これはやばい。

陣痛の間隔を計測するアプリを立ち上げる。15分間隔で痛みがやってくる。冷や汗なのか脂汗なのかわからないがとにかく汗が出てくる。


4時。トイレに行くと股から出血している。鮮血。生理2日めくらいの量が出ていて面食らう。

お腹の痛みは12分間隔まで縮まっていた。

これはさすがにアカン、と産院に電話。

痛みの間隔、出血の様子などを電話の向こうの助産師に伝える。

「あ〜。それなら病院きてもらいましょうか〜。」

冷静でのんきな助産師。緊迫していた私は少し落ち着きを取り戻す。

産院まで何分で来れるか尋ねられ、「車で5分です」と答えると「近っ」と笑われた。私は笑いに飢えた獣なので、ウケた気がして嬉しかった。


電話を切る前、助産師が滑り込むように言い放った。


「スクワット10回してから来てください」


えっ、どういうこと?

急に体育会系?バスケ部の先輩?助産師兼パーソナルトレーナー


聞けば、お産が進むようにとのこと。初産婦なのでなるべくスムーズに進むよう考慮した上での指示。決して後輩をいじめたいバスケ部の先輩ではない。

電話を切ったあと、言われたとおりにスクワットする。夫が見守る中、笑いに飢えた獣(妊婦ver.)が薄明かりの中スクワットをしている。「のちのちネタになる」と確信しながら10回を終わらせた。


夫の運転する車で産院に向かう。この時点でかなり痛かったが、運転中の夫を焦らせたくなかったのでぽそぽそ「痛い」と呟く。

4:30ごろ到着。産院エントランスのインターホンを押し、入り口の自動ドアを解除してもらう。ドアの開き待ちをしながら痛みの波に耐える。立っているのがつらい。波が引くとスタスタ歩ける。


エレベーターで産院2Fに通される。痛みが引いてるうちに極力早歩きでナースステーションに向かう。電話に出てくれた助産師が出迎えてくれた。カーリングのメガネ先輩に似ている。

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先輩は私の歩みが余裕しゃくしゃくに見えたのか

「あら、結構大丈夫そうな感じ?」と軽口を叩いてきた。やはりこのひとスパルタだ。先輩だ。

私は「痛みの波がくるとやべえっす」と三十路らしからぬ口調で訴えたが、先輩は意に介さず「よし、そしたら診察券出して血圧と体重測ってこのボードに記名して」と私を入院させる手順を踏んでいく。

過剰に心配されるのが苦手な私にとっては心地よかったし、怖がらなくていいんだなと冷静になれた。

 


入院バッグを抱えた夫とともに個室に通される。分娩台がある。初めまして、分娩台。他にもトイレと洗面台、ソファがある。これが分娩台でなくベッドならホテルのような部屋だ。

ここで夫とは一度お別れ。

もうすぐ生まれるよ!というときに再度呼びつけることができるが、いかんせん初産なのでどれくらい時間がかかるかわからない。

広い分娩室にひとりきり。次いつ会える?そのとき私はちゃんと生きてる?心細い。

 


用意された装備に着替えるよう指示される。

いま着ているものをすべて脱ぎ、産褥ショーツ(股部分がマジックテープでバリっとひらくパンツ)にはきかえる。産褥パッド(生理用ナプキンが「マンモス用か?」ってくらいでかくなったやつ)をショーツにくっつける。ワンピースのような前開きの分娩用ガウンを着る。よりによって黄色地に白ドット柄。ポップすぎだろ。


しかし体調は全然ポップではない。唸りながら身支度をする。痛いなりにお腹が空いてきたので、入院バッグに入れておいた羊羹を食べた。

 


5時。分娩台にごろんと横になり診察。子宮口は2センチ。10センチまで開けば産める。つまりお産の進み具合は2割程度だ。果てしねえ。こんなに痛いのに。

このまま30分ほどNST(お腹に機具を貼り赤ちゃんの心音と陣痛をモニターするもの)。

ズギュンズギュンと元気な心音が部屋に響く。ほっとしたところで陣痛がくる。ういいい、と酔っ払った大学生みたいな声が出る。陣痛のたびに赤ちゃんの心音がゆっくりになってしまうので「深呼吸して」とメガネ先輩に言われる。御意。

 


私は無痛分娩を希望していた。麻酔をし、痛みを取ってお産をするというもの。(たまたま最寄りの産院が無痛分娩で有名だったのはラッキーだった)

しかし最初から無痛なわけではない。初産婦はお産の進みがゆっくりなので、最初から麻酔を打つと進みが悪くなるため、子宮口が5センチになるまでは麻酔を打ってもらえない。つまりそれまでは陣痛に耐える必要がある。

全開10センチに向かってどんどん痛くなるらしいので、5センチくらいまでは余裕だろうと思っていた。

 


完全に舐めていた。

39週6日までの私を殴り倒したい。

2センチの時点でバチクソ痛いわ

 


陣痛の痛みをどう例えるかは人それぞれだが、私の場合。

全盛期のバレンティンが私の腰にフルスイングしている。

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かつ、肛門からミサイルが出てきそう。

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とにかく下半身が爆裂四散しそうな感じだ。音楽性のちがいで解散しそうな下肢をなんとか繋ぎ止めるべく、正座するような姿勢をとり自分のかかとを肛門に押し当てて痛みを逃す。

まさか自分のかかとがバレンティンとミサイルに太刀打ちできるとはな。

 


5時半。陣痛が5分間隔になった。

メガネ先輩が都度様子を見にきては内診をする。私の産褥ショーツをバリッと開き出血量を確認、「いい感じ〜」と呟きショーツを閉じる。

おむつを替えられる赤子の気分だ。これからそれを産むってのに。

「見込みでいうと今日の夜から明日にかけてかな〜」

えっ、今いい感じって言いませんでした?思った以上に長丁場になりそうですやん。いい感じとは?

まあ初産だしな、と自分を鼓舞した。

 


去り際にメガネ先輩が言った。

 


「7時に朝ごはんくるから」

 


あさごはん、、、?こんな痛いのにメシ食えと、、、?

 


「それまで自由にしてて」

 


じゆうとは、、、?フリースタイル陣痛我慢大会ってこと、、?

 


私の絶望顔を察した先輩、「朝ごはん食べたらお産も進むからできるだけ頑張って食べて⭐︎」と爽やかに言い残し去っていく。

 


6時。痛い。ちょう痛い。

1分間バレンティンにフルスイングされてはおさまって、また5分後に打席がくる。

絶対にホームランを打たれるのに投げないといけないピッチャーの気分だ。絶望的な痛みがくるとわかっているのにどこにも逃げられない。産むまで降板は許されない。しんどい。私の母はこれを4人分もやったんか???よく狂わなかったな!!!いや、狂ったうえであんなハッピーおもろオバチャンになったのか???もうよくわからん!!!


7時。朝ごはん到着。

かなり少なめの量だが食べ切れる気が微塵もしない。とても美味しそうなのに。

陣痛の波が引くたびゼイゼイ言いながら食べ物を口に入れ、タイマーを見ながら次の波が来るまでに咀嚼を終わらせてすべて飲み込み、波が来ては肛門から出ようとするミサイルに悶える。地獄。

全然食べたくなかったが、メガネ先輩の言うことを信じて食べた。

タイマーがズレてパンにジャムを塗ってる最中に陣痛がきたときは思わず「なんでええええ」と声が出た。


7:50。7割残した朝ごはんが回収された。

陣痛は3〜4分間隔になっていた。メガネ先輩が内診をする。子宮口は4センチ。「思ったよりも順調」の言葉にホッとする反面、「まだ4割なの、、?これで、、?」と白目を剥きそうになる。

「順調だから麻酔科の先生が来たら無痛始められそう、9〜11時くらいが目安かな」

痛みの終わりが見えたが、それまでは走り切らないといけない。持ってくれよカラダ…


8時。ほんとうにつらい。

ひたすらひとりで陣痛に耐える。

出産のドキュメンタリーを見てなんとなく「私はこんなに叫んだりしないだろう」とたかをくくっていたが、これは声が出る。叫びまではいかなかったが呪怨のように「あ゛あ゛あ゛あ゛」と言ってみたり、「痛えよ〜」と口調を乱してみたり、お腹の子と自分自身に「がんばれ〜」と言ってみたりした。どんな声を出そうか、と脳を動かさないとこのまま狂ってしまうのではないか、と恐ろしかった。


8:50。メガネ先輩がやってきて

「麻酔科の先生来るからね〜。よく頑張ったね」と声をかけてくれた。

脳内の私があの紙をバッと広げた。

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9時。メガネ先輩じゃない助産師が来た。先輩、夜勤終わったのか。ありがとう先輩。

この人が担当助産師になるらしい。

麻酔科の医師もきた。

この時点で陣痛がつらすぎて、細かいやりとりはあまり記憶がない。

ダンゴムシのように丸まって横向きに寝て、背中に針を刺された。思わず仰け反りそうになるくらい痛かったが、助産師が私の体を抑えてくれたので無事に針が入る。

針が刺さったまま仰向けに体勢を戻すと、腰から脚にかけてツウーーッと冷たい感覚が走る。

「なんか冷たいです」と言うと麻酔科医が「効いたね」とニヤリ。

そういえば、陣痛を感じない。あんなに地獄だったのに。麻酔すごい。医療すごい。これは課金のしがいがある。

私は陣痛から解放された。

ここからは絶飲絶食。左腕の点滴から水分と栄養が補給される。


9時半。点滴経由で陣痛促進剤がログイン。

麻酔がなければ地獄の釜が開くところだが、私は医療に守られているのでへっちゃらだ。

NSTで赤ちゃんの心音を聞きながらうとうとする。ここからは基本的に助産師なしでひとりで過ごす時間が長い。


9:50。ひとりでうたた寝

NSTの機械音がピーピーと響き、起きる。助産師飛んでくる。こわい。助産師は優しく穏やかに「赤ちゃんの心音がゆっくりになっているから深呼吸してね。赤ちゃんも今狭いところに頭を突っ込んでるからしんどいの。」と説明してくれた。そして「酸素を赤ちゃんに送ってあげようか」と言い頭上から酸素マスクが伸びてきた。酸素マスクオン不織布マスク。なんじゃこら。

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深呼吸すると、赤ちゃんの心音は安定した。がんばれ中の人。


10時半。内診、順調。

少しずつ促進剤の量を増やしていく。

進みがよいらしく、破水したらちゅるんと出てきそう、昼ごろに産めるかもとのことなので夫に来院するよう連絡。

夫がくる前に、とカテーテルで尿を取ってもらう。もう恥ずかしいことなど何もない。私の体は助産師に預ける。そしてカテーテルが痛くない。麻酔すごい。

しかし麻酔が効いているのは腰から下のみなので、左腕の点滴が地味に痛くて不愉快だった。

あぐらかいたり好きな姿勢でいてねといわれるが感覚がないので左脚だけ置いてけぼりになっていた。


11時。なかなか破水しないので人工破膜。

麻酔のおかげで濡れた感覚も温かさも感じない。なんか寂しい。

いよいよいきむのか?と期待したがまだらしい。また放置される。

眠いので寝る。


11時半。夫到着。

顔を見た瞬間ホッとした。泣きそう。よかった。生きてまた会えた。

臨月に入ったとき入院準備をしながら考えていたが、バッグにいちばん入れたいのが夫だった。


12時。そろそろ赤ちゃんを出していいころらしい。

はじめましての医師が入室する。よろしくお願いします〜。とのんびり挨拶する。

助産師が呼吸の仕方、いきみかたを教えてくれる。

夫は私の頭の後ろに回り、いきむタイミングで頭を支える係。

助産師がモニターにうつる陣痛の波形を見ながら「吸って〜、吐いて〜、大きく吸って〜、はい!(いきんで)」と声をかける。

何度か繰り返したがなかなか出てこない。

「切りますね」と、医師。「わかりました」、と私。なにを?と思うだろう。産道が狭くて赤ちゃんが出てきにくい場合、出口を広げるために切開するのだ(文章にするとめちゃくちゃ痛々しいな)。

いろいろ予習してきたので承知の上だったが、「あ〜これ産後痛いんだろうな、座れるのかな」とか「麻酔のおかげで全然痛くないけど、皮膚をジョキジョキ切られる音ってめっちゃグロいな、夫は大丈夫か?」とかのんきに考えていた。


切開後も引き続き「呼吸、いきむ」を繰り返す。頭は見えているがなかなか出てこない。

トイレのスッポンと掃除機が悪魔合体したような器具を赤ちゃんの頭にあて、いきむのに合わせて医師が引っぱる。数回繰り返す。出てこない。


病室に響いていた赤ちゃんの心音が、ゆっくりとしてきた。これあんまりよろしくないのでは?と思いつつ深呼吸をし赤ちゃんを応援する。


病室内にわらわらと人が集まってきた。私、夫、医師、担当助産師、看護師の5人だったのに、いつの間にか助産師と看護師が増えている。スタッフだけで8人いる。なんだなんだ。そんなにやばい感じ?


のんびりと色々考えていた私に反し、医師は少しだけ切羽詰まった様子で「上から押して!」とニュー助産師に指示した。

私の右側に、ガタイの良い助産師がきた。台の上に立っている。

「あっ、結構打点高めなんスね」という私の呟きは現場の空気にかき消された。

ガタイ助産師が私のお腹を押す。それはもうめちゃくちゃに押す。肋骨の下あたりをぐいぐい押してくる。久々に痛い。人為的に痛い。腰から上は痛みを感じるの悔しい。

理不尽さにイライラしたが、汗を吹き出しながら私と赤ちゃんを助けようとしてくれるガタイ助産師に「痛えよ」だなんて言えるわけもなく、ひたすら耐える。


出てこない。赤ちゃんの心音がわからなくなってきた。ヘルプ助産師が「小児科の先生呼んでおきますか」と医師に指示を仰ぐ。

そんなにやばい感じ?


私はいきむ。ガタイは押す。医師は引っぱる。担当は指示する。チーム戦だ。

ガタイの鬼プッシュにより、肋骨やばいな〜折れてるかもな〜と私が考えてる間、夫は「妻が殺される」とめちゃくちゃ怖かったそうだ。

(「あと1回いきんで出てこなかったら『帝王切開してくれ』って頼もう」と半泣きになっていたらしい)


数回のチャレンジ後、赤ちゃんが出てきた。

脚の間からチラッと見えた赤ちゃんは、首に臍の緒をぐるぐると巻いていた。しかも3周。そりゃあ苦しかったろうな。心音もゆっくりになってしまうわな。

赤ちゃんを見た私は思わず「すっごい巻いてる〜」と言った。なんとも間抜けな第一声である。

出てきた赤ちゃんはすぐさま小児科の先生に連れていかれた。すこーしだけ、「ふええ」と泣いた。

「ご主人は赤ちゃんと一緒にこちらへ」と促され、夫が分娩室の外に出て行った。

外から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。小児科医の「大丈夫ねえ!元気よ!」という声が聞こえてきてひと安心。


終わったのか…疲れたな…

感動して泣いたりしない自分にちょっとがっかりしたが、やり切った達成感に浸っていた。


結果的に、我が子は「回旋異常」でやや難産だったらしい。本来であれば産道を回転しながら出てくるところを、臍の緒のせいもあって上手に回れなかったようだ。


「産後の処置をしますね」と医師が私の股の間でいろいろやっている。子宮の中をキレイにしたり、切開したところを縫っている。皮膚がツレて不快な感覚がある。処置が終われば麻酔はおしまいだ。

看護師が天井から下がっていたテレビの電源を入れた。赤ちゃんが連れていかれたスペースに繋がっているらしく、モニターにふにゃふにゃの息子が映っている。

凄まじい手際で身体測定されている息子。ひとつひとつの項目に軽快に相槌を打つ夫。


1時間ほど(体感)で産後の処置が終わり、麻酔の針が抜かれた。麻酔科医が「無痛分娩どうだった?」と聞きにきたので「最高でした」と答えると嬉しそうにして帰っていった。なんやねん。


そこからまた1時間ほど横になる。

戻ってきた夫と話しながら過ごす。

麻酔の副作用で高熱が出たり、喉が渇いているのにまだ飲食の許可が出なかったりで大変だった。

夫は私に気を遣って飲み物を飲まなかった。いいのに。


麻酔が抜けてきたころ、赤ちゃんが病室に運ばれてきた。

私の中にいたのは本当にヒトだったんだなあ、と、不思議な感覚で息子を見つめる。

夫と息子と私で写真を撮ってもらい、息子は新生児室へ。夫は帰宅。

 


ここから合宿のような入院生活が始まるが、それはまた別の機会に。


・すぐに授乳を諦めるパクさん

マッサージチェアの住人

・退院健診で私のカルテを見て「逆回転の子ダァ!」と興奮する院長

 


このあたりは書くよりも会って誰かに喋りたい。