アラサー女の二死満塁ブログ

ピンチでもありチャンスでもある

不妊治療 体外受精①卵子がんばれ編

医師から指定された日に来院。30分早く着いてしまった。

待つだろうなと覚悟を決めて、診察券を受付機に通す。採血フロアに向かえと印字されている。

 

フロア移動。採血コーナーに私の受付番号が表示されている。

えっ!もう血ィ抜いてくれんの!?すご!システム!すご!

受付、即、採血。わかりやすい。

一日500人くらい来院するらしいからこの人数こなすにはこうなるか。すごいぜ最後の砦。


しかし採血結果が出るまでは時間がかかる。結局2時間くらい待ったのち、医師からの説明。


「血液からわかる今現在の数値では、成熟した卵子とは言えません。明日もう一度血液検査に来てください。」


明日来いだと…??明日も仕事なんだが…?


「明日の数値がよければ、その2日後に採卵します。再検査の方用の予約枠で予約しておきますね、時間は7:30です」


早朝すぎんか…?何時に起きるねんわたし


「数値によっては明日急遽採卵になるかもしれないから、一日休みを取ってください」


検査だけやって出勤、もアカンのか!ぎええ!


しかし「さもなくば死ね」と言われたくない私は医師に「わかりました」と告げ、会計待ちの間に店長に明日休みを取りたい旨の連絡をした。お店のみんなごめん。申し訳なくてすでに吐きそう。


翌日再検査になったため会計はなし。

重い足取りで帰宅した。

 


翌日、再診。

数値はじゅうぶん。

「明日の午後採卵します」


あ…明日…?2日後ではないのか…?

明日は仕事なんですけど…お休みは(前もって相談したうえでなんとか)明後日に取ったんですけど…

しかし「さもなくば(略)」と言われたくないので、また店長に連絡。もうすでにいやだ…申し訳なさすぎて消えたい…

 


医師との面談のあと、看護師から採卵前日・当日についての説明。

点鼻薬を処方された。排卵時間のコントロールのためらしい。

健康体人生、無論はじめての点鼻薬である。

看護師の指導を受け、目の前でキメる。右・左・右と3プッシュ。「上手です」と褒められる。特技に点鼻薬って書こうかな、今後。

鼻から口へ流れてくる。苦い。


座薬も処方された。ボルタレンだ。

本来痛み止めに使用するものだが、意外な効果として、卵胞の壁を厚くし不意の排卵を防ぐそうだ。気づいたひとすごいな。

18時・24時・翌朝9時にズキュンせよとのこと。忘れそう。


当日はネイルだめ。酸素濃度計が反応しなくなるため。

リップ、チークもだめ。肌の血の気を見るため。

手術と同じと考えてください、と。

受けたことないんすよ手術…と思いながら「承知しました(キリッ)」と返事した。

 

夫にも ことの顛末を説明した。

仕事を休むことや長時間の通院、投薬、体への負担について労ってくれた。いいやつだ。

座薬を忘れないように。彼もきちんと投薬できてるか心配だろうから終わり次第随時LINEで知らせてあげよう。

「座薬がログインしました🍑」

 

スベリました。

 

 

採卵当日。

採精を夫にお願いしてある。射出してから2時間以内に提出せよとクリニックからのお達しだ。

新宿までドアトゥードア最短1.25時間。制限時間カツカツである。ミッションインポッシブルのBGMが聞こえそう。

出発時間ギリギリで採精する必要があったので、平日だったが夫は午前休を取ってくれた。ありがとう夫よ。

 

出発時間直前。

夫から精子が入ったカップを預かる。

(神妙な顔で寝室から出てきたのが印象的だった)

カップをタオルを巻いて保温バッグに入れ、温度変化を防ぐ。

そのまますぐに埼玉から新宿へ向かう。

 

まさか私が精子をカバンに入れて運んでいるなんて、この車両に乗り合わせたひと誰も思わないだろう。

今「カバンの中身見せてください!」的なモデルがよく突撃されるやつに遭ったら万事休すだ。私がカリスマモデルなら若い女子の間でカバンに精子を入れるのが流行ってしまう。ハッシュタグ「カバンの中身」界隈がざわついてしまうぞ。

 


埼玉と東京の境を越えたくらいから、このような平和な思考はできなくなってくる。急に不安に襲われる。

体質がポンコツっぽいことはわかったが、卵子の質も悪かったらどうしよう。

そもそも採れなかったら?メンタル大丈夫そ?

 


いやいや、いま不安になったところでいきなり卵子が育つわけじゃない。ぐだぐだ考えても質が良くなることはない。やめよ。無事にクリニックに到着して精子を提出することだけ考えよう。

 

採卵編に続く

不妊治療 体外受精クリニック初診編

2021年2月。

私たち夫婦は体外受精へのステップアップを決めた。

 

ここで大きな問題になるのが病院選びだ。

場所によって治療方針や価格が大きく違う。

しかも治療実績を公開しているところとしていないところがある。

ハードル高すぎやろ…と絶望しかけていたところ、夫からある提案が。

 

夫の部下の女性で、長年不妊治療してたが実らず、新宿の某有名クリニック(Kクリニックとしよう)に転院したら一発で授かったという方がいるらしい。そのKクリニックはどう?とのこと。

 

Kクリニックについて口コミを見てみた。

体外受精専門のクリニック。

・高齢だったけど授かることができた。

・自然周期で投薬が最低限で良かった/向いてなかった。

・無麻酔採卵が良かった/辛かった。

・培養士の腕がピカイチ。

・待ち時間が長い。

・基本的な用語は覚えてる前提で話がすすむ。質問できる雰囲気ではないため、勉強必須。

・仕事でその日は通院できないと言ったら「ではこの周期は諦めるしかありません」と冷たく言われた。

・年末年始やお盆、日曜も開いているので治療周期を見送らなくてよいのが助かる。

・さすが体外受精フェーズ最後の砦と言われているだけある。

 

だと。

ちょいちょいわからないワードが多い。また勉強しないと…


それより、最後の砦に最初から挑もうとしてるの?私。ネタやん。

なによりこんなに身近に成功例があるのだからと、Kクリニックに通うことを決めた。


しかし、考えないといけないことが増えた。

体の周期に合わせて急遽仕事を休まないといけない可能性が出てきた。

生理周期は確実なものではないし、ましてや卵胞の成熟具合などはシフト希望の提出時にはわかるわけもない。

 

口コミのとおり、「仕事休めません」などと言ったら「さもなくば死ね」と言われてしまう(ちがう)

恥も外聞もクソ食らえである。ここで腹をくくらねば一生後悔する。店長にカミングアウトするしかない。そして都合をつけてもらうお願いをする。店長は男性だったが、私の治療の話を真剣に聞いて、要望を簡潔に吸い上げてくれた。シフトの件は随時相談するように、応援するよと。ありがたすぎる。


加えて店舗で一緒に働くメンバーにも伝えねば。

子持ちもいなけりゃ既婚者も私だけ、ほぼ全員が私より若い女性たち。きっとすぐ理解するのは難しいだろう。が、優しい子たちなので「通院のために毎月数日急遽休む」だけだと「体調が悪いのか、何か病気なのか」と心配させてしまう。それは私の本意ではないし、僭越ながら彼女たちの今後のライフプランの中に私の先例が何かの役に立てばと思い、職場のメンバーには包み隠さずすべて話すことにした。

あとは今まで以上に謙虚さを持ちみんなに感謝を伝える。プライベートまで応援してもらえるようなパフォーマンスを維持する。これに尽きる。


私があまりにあけすけに話すので、興味津々で聞いてくる子が何人かいた。私も私で話したがりなので多少おもしろ可笑しく話すようにした。(この語りがのちのちブログの構成に活きることになろうとは…)


よし。根回し完了。

初診に際し予約やらをする。

初診用問診表はWeb入力らしい。開いてみる。


ア…アホほど長い…

しかも細かい数字が必要。今までの通院記録を引っ張りだしながら入力していく。


・子どもを望みはじめたのはいつから

・タイミング法は何回実施したか

・AMHの数値は

・夫の精子の成績は


この項目がいちばん堪えた。現実が突き刺さる。今までにもいろいろ突き刺さりすぎてもはや風通し抜群の私のこころ。

 

 

予約当日。ひとりで新宿に向かう。

本人確認書類を提示し、静脈の登録をする。

診察券が発行された。患者番号の他に受付番号が毎回振られ、院内の画面に表示された階に移動を促される。登録しておけば、移動のタイミングでメールも送られてくる。メールが来るまでの間外出も可能だ。

待ち時間の間に読めと、院長が書いた書籍を渡される。

 

採血コーナーに呼ばれる。苦手な注射だ。顔を背けた。終わりましたよ、と声をかけられてテーブルを見たら6本も血液を取られていた。ちょっと目が回る。ちょっと目が回ります、と看護師に伝えると安静室に案内された。ベッドに横になる。もうすでにつらい。

 

10分ほど休み、採尿。血圧測定。

もろもろの検査結果が出るまで別フロアの院内PCでムービーを見る。お勉強だ。


内診室に呼ばれる。消防士のごとく服を脱ぎ検査。

ここで驚きの事実発覚。

「左の卵巣と卵管の間に、水泡がいくつかありますね。せっかくのタイミング法はこれに邪魔されてたのかもしれません。」

えええ。前のクリニックでは何も言われなかったんだけど。一日二日でできたり消えたりするものではないらしく、おそらくずっとあっただろうとのこと。

まじかよ。夫ごめん。重ね重ねごめん。謎の水泡こさえてしまってたみたい。

もっと早く体外に進んでも良かったってこと?とモニョモニョした。


血液検査やらの結果が出たらしく、診察室に呼ばれる。

感染症にはかかっていない、風しんの抗体もある(追いワクチンしたからね)、AMHの数値がやはり低いなどいろいろ説明を受ける。

 

医師「いつから治療を始めたい?」

私「なるはやで」

医師「では10日後来院してください。卵胞の大きさをはかり、十分であればその次の日採卵をします。採卵日には旦那さんの精子をもってきてください。今回は新鮮胚移植をします、採卵の2日後には体内に胚を戻します。」

 


パードゥン?

 


おおう、急展開なんだが。

今月さっそくやるのか、そりゃそうか。

さっき勉強したムービーのおかげで医師の言ったことは9割理解できたが、心の準備が追いつかないまま放心状態で会計待ちをした。


4時間の滞在、お会計¥23,987


金銭感覚はすこしマヒしてきた。

こんなもんだろ、と。

 


帰りの電車でシフトの確認をした。

医師に指定された日は全部出勤の日程だった。

地を這うような気持ちで店長にシフト相談のメールを打った。


「こんな周りに迷惑かけてまでやることか?」

もうひとりの自分がチクチクと言ってくるがなるべく聞かないようにする。子どもは私の行動でしか授かれない、いくら仕事をやったって会社が子どもをくれるわけではない。

同僚には謝ろう、感謝をしよう、いままで以上に誠実に接するようにしよう。これしか思いつかない。応援される人間にならねば。


「夫は休まなくていいから気楽だよな」

いやいや仕方ないことだ。もうひとりの自分うるさい。

夫は妊娠できないのだ。妻に仕事を休ませて気まずい思いをさせることは、私が夫なら心苦しい。自分は種を出す以外なにもできないのだから。しゃーない。労うしかないし、きっと夫なら労ってくれるはず。

(シフトの調整ありがとうね、同僚のみなさんにも感謝だね、と毎回言ってくれました。ただの神)


なんとかシフトの都合がついたので、医師指定の10日後に備えることになった。

不妊治療 卵管造影編

痛いやつ。つらいやつ。

妊活の先輩たちはそう言う。

それが卵管造影だ。


痛さ度合いでいうと

f:id:rokubun_no_ichi:20220118015334j:image

こんな感じらしい。

めっちゃこわい。


卵管造影とは。

卵管が詰まってると卵子が子宮まで辿り着けない。なので子宮から造影剤を注入し、レントゲンみたいに管の通りを確認する検査だ。

f:id:rokubun_no_ichi:20220118015354j:image

造影剤を注入することで、半年ほど卵管の通りをよくすることもできるというオマケつき。

ツイッター界ではゴールデン期と呼んでいた。

 


必要な検査だということはわかっている。

ただ、怖い。

痛みもそうだけど、もしこれでトラブルが見つかったら?卵管の狭窄があったら?また「私のせい」が明らかになったら?

今度こそ自分で自分を許せなくなるのではないだろうか。


ぶつけようのない焦りと不安に押しつぶされそうになりながら、クリニックの待合室で静かに泣いた。


医師から説明を受ける。

「造影剤に含まれるヨードに対するアレルギーはないですか」

ありません。

「痛みを伴うので鎮痛剤を処方します。検査前に使用してください。座薬です。」

わかりました。

(座薬…!人生初の座薬!!!)


夫にLINE。

f:id:rokubun_no_ichi:20220118015436j:image

このあと続々と座薬の入れ方・図解を送ってくるマイハズバント。嫌いじゃない。


いざ検査。


例のごとく、下半身は脱ぐ。手術着のようなガウンに着替えさせられる。

内診台へあがる。

もう一度図解。

f:id:rokubun_no_ichi:20220118015354j:image
このバルーンがちょう痛い。

キツい生理痛みたいな重さ・鈍痛に加え、膀胱が圧迫される。これは…やばい。おしっこが漏れてしまいそう。

「これは28歳にして大人の尊厳を手放す感じ??」と焦りと痛みのダブルパンチですでに汗だく。

追い討ちをかけるように造影剤注入。

あいたたたたたたたたたたたた!!!

看護師「痛いよね〜!頑張って〜!すぐ終わるからね〜!!!」

鈍痛に次ぐ鈍痛。もう許してくれ。お腹がしんどい。気持ち悪い。


内診台をおり、レントゲン機器(みたいなやつ)の前に移動。直立。汗だくの私。

お医者「大丈夫ですよ〜!キレイに通ってます!」

 

うるせえ!
そんなことより!!!!!!

一刻もはやくこれ(バルーン)を抜いてくれ!!!!漏れる!!!!!

(多分実際はそつなく相槌を打ったのだと思う。よそいきの自動音声が役に立った)


内診台に戻る。

バルーン抜かれる。鈍痛が嘘みたいになくなる。

生き延びたと言わざるをえない。私は生還したのだ。


頑張ったね〜!着替えてくださいね〜と看護師に声をかけられ、カーテンが引かれた。

私はまさに「orz」状態で満身創痍、しばらく動けそうになかった。


やったぞ。やってのけた。

激痛だったけど、これはネタになる。

その気持ちで私は服を着た。


放心状態で待合室待機。

診察室に呼ばれ、さっき造影室でも聞いた「キレイに通ってましたよ」を告げられた。

「この説明要るか?」と半ばキレそうになったが大人しく会計に向かった。


本日のお会計7800円。

おおう…ヘビーね…


卵管造影から数日、お腹がゆるくなったのと蕁麻疹が出たので、結局アレルギーだったのかもしれん。


とはいえ、痛みと恐怖と引き換えにゴールデン期ゲットだ。

体温をはかり、内診台にあがり指導を受け、夫に業務連絡をすることを繰り返した。

 

クリニックのたびに戦いにいくような勇ましい気持ちが芽生え、経膣エコーの棒を「今日もへし折ってくるぜ」とツイッターに報告していいねを稼いだ。

無心で内診台にあがれるようになり、恥じらいは田んぼの畦道に捨ててきたので服の着脱がとんでもなく早くなった。まるで出動要請がきた消防士だ。

途中で、自己流を含めてのタイミング法を初めて1年が経ったときは「これで私も立派な不妊症だ」と律儀に落ち込んだ。

投薬もないし、これは治療なのか?と「不妊治療 どこから」で検索したこともあった。ベンザブロックかよ。授かれないアナタには治療のベンザ、ってやかましいわ。

リセットがくるたび夫とヤケ酒会を開催し、「この人となら一生ふたりでもいいな、私ほんまにこども欲しいんかな。こんな弱気なの夫にも言えない」と、シクシクと泣いた。

 

頑張りは虚しく、その後6周期、空振りに終わった。

卵管造影も含め、半年で費やした金額52,050円。

2020年の6月から11月。

あっという間のゴールデン期だった。


期待していたぶんズドンと重くのしかかり、ひどくひどく落ち込んだ。

うまくいかないイライラから仕事で接客クレームを連発した。横柄な妊婦の客にイライラして「なんでお前みたいなやつに子どもができるんだ。代われよ」と思った。

 

こんなことを考えてるから子どもが来てくれないんだ、私が未熟な人間で、母親に相応しくないから授かれないんだ、と夜中にひとりでおいおい泣いた。

インスタグラムが開けなくなった。私よりもあとに結婚した同級生や歳の近い知り合いたちが次々と妊娠、出産していく。

生後〇ヶ月、とキレイな写真を載せる。

SNSは個人の自由なので、自衛するしかない。

精神衛生のため、インスタグラムアプリをアンインストールした。

 

「ストレスが溜まると妊娠しづらいよ」という助言がもはやストレスで、溜まったストレスで肌が荒れてまたストレスが蓄積し、「眉間にできる吹き出物はストレスが原因です」に憤慨し、結局妊娠できないという負の無限ループに放り込まれた。

いま振り返ってもあの頃は暗黒だった。ダースベイダーもびっくりのダークサイドだ。


妊活の日々を重ねるたび私はツイッターのフォロワー数を増やし、「わかる」というリプライを募り、リセットがくるとみんなで励ましあった。

授かったひとがいれば大いに喜んだ。ちゃんと喜べていたと思う。たぶん。

 

 

話を戻す。

ゴールデン期が終わってしまった。

夫と相談。ステップアップするか否か?

タイミング法でダメなら人工授精。

人工授精がダメなら体外受精とステップアップしていくのが不妊治療だ。


人工授精。

採取した精子をさらに精製し、子宮の奥に医師が注入する治療だ。1回2万円くらい。


精子が元気ない場合は有効な手だが、幸い夫は億男である。

人工授精とタイミング法に、もはや差はあるのか?

 


いろいろと吟味した結果、一気に体外受精へと進むことにした。

いよいよ高度不妊治療へ足を踏み入れる。

年明けからのスタートだ。

不妊治療 タイミング指導編

緊急事態宣言明け、通院しながらのタイミング法開始。


夫の検査結果はすこぶる良好だった。

平均値を全て上回っている。億男め。やはり私が原因か。

追撃でかなり凹んだが、相手に原因があったとしたらどういう気持ちで頑張ればいいかわからなくなっていたと思うので、自分由来の不妊でまだ良かった。いや良くないけど。


クリニックでのタイミング指導。

自己流との違いは、超音波で卵胞の大きさを診て「今〇〇ミリだから〇日後に排卵しそうなので、〇日と〇日にタイミングとるべし」と指導される。


超音波検査。

こいつがなかなかに屈辱的な格好を強いられる。

子宮頸がん検診を受けたことがある女性なら全員経験してるはずだが、あれを毎月やるわけだ。

下半身の洋服をすべて脱ぎ、内診台に座る。

軽くリクライニングしたのち、脚がぱっかんと開かれる。

f:id:rokubun_no_ichi:20220117172339j:image
笑っている場合ではないのだ。

間にカーテンがあるとはいえ、向こう側は私のすっぽんぽんの下半身が晒されている。実にシュールだ。

脚がご開帳され、膣に棒状の機器が挿入される。

右の卵巣〜!左の卵巣〜!と順番にぐりぐりと押し付けられる。なんとも言えない気持ち悪さ。


内診おわり。

服を着て、隣の診察室で指導を受ける。

何百人何千人の下半身を見てるであろう医師とはいえ、さっきまで私の股に話しかけてた人物が目の前にいるのは気まずい。

(治療を重ねるごとに何とも思わなくなってくるが)


診察おわり。

お会計1810円。マンガ3冊買ってもお釣りがくる。

自然に授かれるひとは払わなくていいお金なんだよなあと頭によぎる。黒い影が胸に広がる。

 


タダで妊娠できるひとはいいよなあ…

 

 

 

 


…え??うわっ!?私いま何考えた!?性格悪すぎる!!!!お家それぞれの事情!!ヒトにはヒトの乳酸菌!!!

 


暗い気持ちに支配されたが、すぐに切り替えた。

(今思えばこのときはまだすぐに切り替えられる程度の仄暗さだった)

 


帰宅途中、夫に連絡。

「〇日と〇日、よろしくお願いします」


「了解!禁酒します」


もはや業務連絡である。色気もクソもない。

私たち夫婦にとって子を成すことはロマンスではない。ミッションだ。私たちはチームだ。

 


初通院、初タイミング指導も虚しく、生理がきた。またリセットだ。もうええて。

 


次月も通院。医師からの提案。

「卵管造影をおすすめします」

 

 

 

きたか、噂に聞きし激痛検査…!

 

 

 

次回に続く

不妊治療 風疹ワクチンで休戦編

風疹。妊娠した状態で風疹に罹患すると、胎児に重篤な障害が出てしまう。なのに、妊娠中にワクチンは打てない。

抗体値が低い場合、子どもを望むなら妊活前にワクチンを打つ必要がある。

(詳しくはググってくださいませ)

風疹ワクチンを打ったあとは、妊活は2ヶ月休まねばならない。


2ヶ月…だと…


こんなに!!残弾数が少ないってのに!!

貴重な2ヶ月!!卵子2個を犠牲にしろと!!


まさに出鼻を挫かれた状態だった。

仕方ないこととわかりつつも、落ち込んだ。

自分の体がとことん妊娠向きでないと言われた気がして、内臓がズドンと重く感じた。


夫に連絡した。

「かくかくしかじかで、2ヶ月お休みになりました、ごめんなさい」


夫からの返信

「では2ヶ月間キャンプざんまい、その後妊活祭りだな」


楽しい感じにしてくれてる。

私は私を責めたが、夫は私を責めなかった。

(まあ責めたところで風疹の抗体が増えるわけではないが)


さらに夫、

「その間に僕の検査もしておくね」


おいおい、模範かよ。

主体性がありまくりかよ。


事あるごとに夫の優しさと、目的達成への邁進っぷりに救われている。

 

 

さて、風疹ワクチンの接種だ。

不妊治療クリニックで打ってくれるので後日来院。

コロナワクチンのブログでも書いたが、私は注射がとても苦手だ。

やや半泣きになりながら処置室へ向かった。

目の前にふたりも看護師がスタンバイしている。こわい。


緊張するとヘラヘラしてしまう私は、看護師(おばちゃんとお兄さん)に向かって

「注射こわいけど頑張りますう〜」と愛想を振りまいた。


すると、ふたりはスーパー応援モードにシフトしたのか

 


「頑張れー!ちょっとチクッとしますよー!大丈夫よー!がんばれー!はい終わったがんばったねー!!」

 


と、盛大に励まされながら注射は終了。

 

処置室が小児科になった瞬間を垣間見た。

 


これが2020年3月のころ。

お休みの2ヶ月間はちょうど初めての緊急事態宣言が重なり、結局キャンプもそこそこしかいけなかった。くやしい。

不妊治療 初めてのクリニック編

自宅の最寄駅から8分くらいの場所にある不妊治療クリニックに予約をした。2020年2月末。

初めての経験なので、ホームページを隅から隅まで読んだ。

「初診にかかる時間の目安 1〜5時間」

嘘だろ…

「初診料 2〜3万円」

まじかよ…

完全に新世界に飛び込もうとしているらしい。やってやろうじゃねえか。


問診票をプリントアウトし記入。

いざ、向かう。


受付を済ませ、ソファにて待つ。発行されたばかりの診察券番号の覚え方語呂合わせを考えるレベルで暇だ。

院内の待合室には十数人ほどの女性と数人の男性がいた。

天井からぶら下がっているモニターに、診療内容ごとに診察券番号が表示されている。AIH、HSG、IVF…呪文か?(のちのち知ることになる)

「初診予約」の下には私の番号しかなかったので、この日の初診は私だけのようだ。しかし依然として呼ばれる気配はない。


こんなこともあろうかと、漫画を数冊持ってきていた。進撃の巨人だ。

(今思い返すと、人間を授かろうとしている場で、人間がバクバク食われる漫画を読むなんて正気の沙汰ではない。どうかしていた。)

3冊目の途中でポーンとチャイムがなり、モニターにでかでかと私の診察券番号と○番診察室に入れとの表示。

受付してから1時間が経っていた。覚悟してたよりは早かった。


診察室では医師と、問診票を淡々と読み合わせた。今日は採血し、妊娠にまつわるホルモン値を調べるそうだ。一週間後出る検査結果を踏まえて治療方針を決める、という流れだ。


処置室で採血。30分ほど待ち、会計へ。

初診料…

い、いちまんななせんえん…!!!

ふるえる…!!!

こんだけあればお洋服もめっちゃ買えるし、美容室でカットカラーパーマできるし、デパートコスメを爆買いできる。それを一瞬で持っていく。これが沼の入り口か。

※その後調べたら、不妊治療検査費用は2万円までなら自治体の補助があることがわかった。申請期限が過ぎてから気づいたのでただ悔しい思いをしたのみだったが

 


一週間後。

検査の結果、不妊の原因は私にあるらしい。

AMHという卵子の残数の数値(厳密には違うけど便宜上この表現)が平均よりもかなり低く、40代女性と同じくらいとのこと。


医師がいろいろと説明してくれていたが、まったく入ってこない。


私が悪かったんだ。

数値が頭の奥をガンガン殴ってくる。


30年弱、異常といえば性格がひねているくらいでそれ以外はすこぶる健康に生きてきた。

私自身4人きょうだいだし、姉も2人出産している。

家系のうえでまさか自分が不妊だとは思わず、1週間ほど落ち込みっぱなしだった。

自分のことを「欠陥品だ」と責めては夫に諌められたり慰められたりしていた。

(私以外の不妊に悩んでるひとを欠陥品だと思っているわけではありません。悪しからず)


あとから改めて調べたら、AMHの値と妊娠しやすさは比例するわけではないらしい。

卵子は数より質で、質は年齢と比例するので、AMHは低くても年齢が若ければあまり気にしなくてもいいとのことだった。

まあ、気にすんなと言われても無理だが。


ともすれば残弾数が少ないってことでしょう。一気にタイムリミットがぐっと迫ってきた気がした。

 


追撃で医師から衝撃のお知らせ。

「風疹の抗体値が低いです。ワクチンの打ち直しをおすすめします」

 

 

 

なんだって…?

さあ浮世を手玉にとっちゃいな

疲れてるなあ、と思う。

普段好かない甘い飲みものが飲みたくなったり、呼吸が浅いことに気付いたり、目をぎゅっと瞑りたくなったりしたとき、そう思う。

 

窓のない職場なので、日の傾きも、外気温もまったくわからない。

人間として大事な感覚が、自分からポロポロ剥がれていく気がする。

 

お客様が一切目を合わせてくれなくても、こちらの質問にまったく答えてくれなくても、なんとか手を替え品を替え要望を聞き出し応えねばならんのだ。それが私の仕事だ。

接客されたくないんだろうな。わかるよ。店員と喋るの面倒なときあるよね。でもすまん、これが私の仕事だ。

手間のないようにクローズドクエスチョンにするから、せめてハイかイイエで答えてもらっていい?私だってひとの心があるんでっせ。

 

はあ、人間扱いされたい。人間に戻りたい。

このままの気持ちだとひとことめには「ネットで買え」と言ってしまいそう。ピンチだ。

切り替えねば。

 

職場で唯一の屋外は、屋上の喫煙所。

以前は寄り付きもしなかったが、今日は甘んじて副流煙を浴びにいく。

仕方あるまい、人としての尊厳のためだ。

 

休憩室併設のカフェで、期間限定はちみつ入りロイヤルミルクティーを買う。

なるべく風上に座る。

 

少しひんやりした風。

パラソルを嘲笑うかのような西陽があたたかい。きみたち相性いいな。コンビ組みなよ。

 

火傷しないようおそるおそるミルクティーをすする。甘い。気持ちがほどける。

周りが煙を吐く中、私の吐息だけが甘かった。

なんかいいな。ボーッとできる。

 

今まで喜んでくれたお客様のことを考える。

よし。元気でた。気がする。

ぼちぼち頑張ろう。

 

 

チャイナアドバイス相対性理論